回遊や渡りなど、生物の旅に関する論文&研究日誌
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H.S.Makinen, J.M.Cano, J.Merila
Molecular Ecology, 2006, 15, 1519-1534
今日はゼミがあった。
結構おもしろい論文紹介だったのでまとめてみます。
Abstract
イトヨ(Gasterosteus aculeatus)の集団構造を明らかにするために、ヨーロッパにおける本種の分布を網羅する74地点から採集した1724個体について、18のマイクロサテライト遺伝子座の変異性を調べた。その結果、標本全体として大きな遺伝的分化が認められたが(FST=0.21)、生息場所による遺伝的変位性はそこまで大きな差異は無いことが明らかになった。明瞭な遺伝的差異が認められた淡水産の集団に比べて、海産集団は、広大な範囲に亘って遺伝的に比較的均一であった。AMOVAの結果、地域間の対立遺伝子頻度の変異(2.7%)は小さいながらも有意に異なっていたが、生息場所による差異(0.2%)は無視できる程度であった。系統的なパターンは、生息場所では説明することができないが、地域もしくは水系ごとにまとまる傾向が認められた。これらの結果は、北ヨーロッパでは、海産の祖先が最終氷河期の海進の間(約10000年前)に淡水に移入し、地中海では、それより以前の更新世に移入が起こったことを示す。河川や湖沼集団が独立に起源しているということは、祖先を共有するというよりは、複数回の移入があったことを示している。連続的な海洋環境では、有効集団サイズが大きく集団間の遺伝的流動があるために、集団間の差異が小さいと考えられる。対照的に、最終氷河期後に派生した淡水集団間の遺伝的差異は、遺伝的浮動と隔離によるものと考えられる。イトヨの分布域の南側における集団の差異は、段階的な変異によって生じたと推察される。
発表者の感想
集団構造を決定するのは、回遊パターンというよりは、回遊そのものの柔軟性、産卵場への固執性などか?
感想
海でも淡水域でも繁殖可能で、ライフサイクルを回せるという能力そのものが、このような生活史の多型や回遊の有無などを生じさせる土台となっていると感じた。
Molecular Ecology, 2006, 15, 1519-1534
今日はゼミがあった。
結構おもしろい論文紹介だったのでまとめてみます。
Abstract
イトヨ(Gasterosteus aculeatus)の集団構造を明らかにするために、ヨーロッパにおける本種の分布を網羅する74地点から採集した1724個体について、18のマイクロサテライト遺伝子座の変異性を調べた。その結果、標本全体として大きな遺伝的分化が認められたが(FST=0.21)、生息場所による遺伝的変位性はそこまで大きな差異は無いことが明らかになった。明瞭な遺伝的差異が認められた淡水産の集団に比べて、海産集団は、広大な範囲に亘って遺伝的に比較的均一であった。AMOVAの結果、地域間の対立遺伝子頻度の変異(2.7%)は小さいながらも有意に異なっていたが、生息場所による差異(0.2%)は無視できる程度であった。系統的なパターンは、生息場所では説明することができないが、地域もしくは水系ごとにまとまる傾向が認められた。これらの結果は、北ヨーロッパでは、海産の祖先が最終氷河期の海進の間(約10000年前)に淡水に移入し、地中海では、それより以前の更新世に移入が起こったことを示す。河川や湖沼集団が独立に起源しているということは、祖先を共有するというよりは、複数回の移入があったことを示している。連続的な海洋環境では、有効集団サイズが大きく集団間の遺伝的流動があるために、集団間の差異が小さいと考えられる。対照的に、最終氷河期後に派生した淡水集団間の遺伝的差異は、遺伝的浮動と隔離によるものと考えられる。イトヨの分布域の南側における集団の差異は、段階的な変異によって生じたと推察される。
発表者の感想
集団構造を決定するのは、回遊パターンというよりは、回遊そのものの柔軟性、産卵場への固執性などか?
感想
海でも淡水域でも繁殖可能で、ライフサイクルを回せるという能力そのものが、このような生活史の多型や回遊の有無などを生じさせる土台となっていると感じた。
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塚本勝巳
川と海を回遊する淡水魚 p2-17
第一回目は、回遊に関する教科書から指導教官である塚本先生のレビューについてにした。
以下にその内容をまとめる
【回遊の定義】
「水棲動物がその生活史のある決まった時期に一つの生息域から別の場所へ移動し、再びもとの生息域へ戻ってくること」
特に川と海を往き来する回遊のことを「通し回遊(Diadromy もしくは Diadromous Migration)」という。それを行う魚を通し回遊魚といい、回遊魚といわれるものは一般にこれらを指す。
【回遊魚の分類】
・遡河回遊魚(Anadromous fish)
サクラマス、サケ、ワカサギ、シロウオ、オショロコマ
・降河回遊魚(Catadromous fish)
ウナギ、アユカケ、ヤマノカミ
・両側回遊魚(Amphidromous fish)
アユ、カジカ、ヨシノボリ
【回遊魚の分布様式】
通し回遊魚は32科、約160種(McDowall 1988)。
魚類全体(2万種)の1%以下。
遡河回遊魚は87種、降河回遊魚は41種、両側回遊魚は34種。
遡河回遊魚は北半球の高緯度地方に多い。
降河回遊魚は赤道を中心に、両半球の低緯度域に多い。
【回遊の起源と進化】
Grossの仮説;川と海の生産力の違いが基礎になっており、その傾斜に沿って回遊現象が進化した。
サケの例
一般に産卵場のある場所がその種類が起源したところと考えられる。
高緯度域では川の生産力が低く、海のそれは高い。
産卵場を河川に残したまま、海に成長のため生育場を求めた。
海へ降りて大きく成長した個体が淡水にとどまった個体より多くの子孫 を残す。
幼期の降河回遊に関わる遺伝子が集団の中に広がる。
やがて定型的な回遊が定着。
【回遊のメカニズム】
アユの例
アユの回遊行動が解発されるには、以下の三要因がそれぞれ順序よく満たされることが必要。
・日齢と体サイズ
・内分泌条件・・・血中チロキシンレベルなど
・環境条件・・・水温、照度、密度、水深、餌条件など
cf サケではさらに研究が進んでいる。母川記銘など。
先生が主張したい「脱出論」
回遊の発端はある環境がその個体の生存に著しく不都合になり、その結果、そこを脱出したいという内的衝動の高まりが急速に高まった。
感想
脱出論では、例えば積極的に移動することは無いことが前提となる気がする。つまり、移動の動機はそこが不快だからだけで説明がつけられるのかということである。これは、僕自身の課題として研究に取り組んでいきたい。
川と海を回遊する淡水魚 p2-17
第一回目は、回遊に関する教科書から指導教官である塚本先生のレビューについてにした。
以下にその内容をまとめる
【回遊の定義】
「水棲動物がその生活史のある決まった時期に一つの生息域から別の場所へ移動し、再びもとの生息域へ戻ってくること」
特に川と海を往き来する回遊のことを「通し回遊(Diadromy もしくは Diadromous Migration)」という。それを行う魚を通し回遊魚といい、回遊魚といわれるものは一般にこれらを指す。
【回遊魚の分類】
・遡河回遊魚(Anadromous fish)
サクラマス、サケ、ワカサギ、シロウオ、オショロコマ
・降河回遊魚(Catadromous fish)
ウナギ、アユカケ、ヤマノカミ
・両側回遊魚(Amphidromous fish)
アユ、カジカ、ヨシノボリ
【回遊魚の分布様式】
通し回遊魚は32科、約160種(McDowall 1988)。
魚類全体(2万種)の1%以下。
遡河回遊魚は87種、降河回遊魚は41種、両側回遊魚は34種。
遡河回遊魚は北半球の高緯度地方に多い。
降河回遊魚は赤道を中心に、両半球の低緯度域に多い。
【回遊の起源と進化】
Grossの仮説;川と海の生産力の違いが基礎になっており、その傾斜に沿って回遊現象が進化した。
サケの例
一般に産卵場のある場所がその種類が起源したところと考えられる。
高緯度域では川の生産力が低く、海のそれは高い。
産卵場を河川に残したまま、海に成長のため生育場を求めた。
海へ降りて大きく成長した個体が淡水にとどまった個体より多くの子孫 を残す。
幼期の降河回遊に関わる遺伝子が集団の中に広がる。
やがて定型的な回遊が定着。
【回遊のメカニズム】
アユの例
アユの回遊行動が解発されるには、以下の三要因がそれぞれ順序よく満たされることが必要。
・日齢と体サイズ
・内分泌条件・・・血中チロキシンレベルなど
・環境条件・・・水温、照度、密度、水深、餌条件など
cf サケではさらに研究が進んでいる。母川記銘など。
先生が主張したい「脱出論」
回遊の発端はある環境がその個体の生存に著しく不都合になり、その結果、そこを脱出したいという内的衝動の高まりが急速に高まった。
感想
脱出論では、例えば積極的に移動することは無いことが前提となる気がする。つまり、移動の動機はそこが不快だからだけで説明がつけられるのかということである。これは、僕自身の課題として研究に取り組んでいきたい。