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回遊や渡りなど、生物の旅に関する論文&研究日誌
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Salima Aroua, Monika Schmitz, Sylvie Baloche, Bernadette Vidal, Karine Rousseeau, Sylvie Dufour
Neuro-endocrinology 82 221-232 (2005)

Abstract
銀化(黄ウナギから銀ウナギへの以降)は従来から海洋での回遊のための様々な形態的・生理的・行動的な変化を伴う変態現象と考えられてきた。しかし、生殖腺重量の増加やステロイド合成の強化といった変化は春期発動の結果とも考えられる。どの内分泌系列が銀化を引き起こすのかを評価するために、我々は下垂体と末梢のホルモンを雌の黄ウナギから銀ウナギへの移行する段階で測定した。その結果、銀化にともない生殖系が活発になることが明らかとなった。銀化の初期段階ではFSHのmRNAの発現が多く、後期になるとLHが(mRNA、タンパク質ともに)増加した。さらに、性ステロイド(E2、T、11-KT)とビテロジェニンも顕著に増加した。一方、甲状腺ホルモンのmRNAは変化せず、血漿の甲状腺ホルモンレベルは変化しないもしくはごく少しの変動しか認められなかった。このことは銀化にともなう甲状腺系は変化しないか穏やかにしか穏やかにしか変化しないことを示している。同様に、成長ホルモン系は、GHのmRNAとタンパク質が変化しなかった点から、活発にならなかった。さらに、我々は黄ウナギにステロイド(チロキシンと性ホルモン)の長期処理が銀化の形態的特徴にあたえる影響についても調べた。その結果T処理により目の増大、消化管の縮小が起きたが、T4とE2では起きなかった。これらのホルモン動態と実験データから銀化は‘純粋な’変態というよりむしろ春期発動の開始と考えられると結論づけられた。


イントロでの‘Silvering’と‘Smotification’の相違に関する記述や論理展開は面白い。
共通すること:目の増大、鰓の塩類細胞の増加など
共通ではないこと:生殖腺の増加 性ステロイドの増加
このことから、銀化(‘Silvering’)は純粋な意味での変態というよりは、むしろ春期発動と関連しているのではないかと推測している。

Dicussionで気になる記述として、FSHとLHのmRNA発現動態の違いがある。Han et al.(2003)の研究では、FSHとLHが同時にあがっていたが、今回はFSHがはじめにあがり、LHが後に増加した。Yoshiura et al.(1999)の実験でもほぼ同様の結果が得られている。銀化後期(ここではSilverのステージ)でFSHがわずかに減少しているという報告は少し興味深い。

結論は当然イントロで提示した仮説を支持するようにまとめてある。
・生殖腺系のホルモンは変動する。
・甲状腺系のホルモンはほとんど変化しない。
・成長ホルモン系も変動しない。
・T、E2、チロキシンの投与で優性ホルモンのTのみが眼の増大と消化管の体宿を起こした。
→以上のことから、銀化は純粋な変態ではなく春期発動によって引き起こされる現象である。
→回遊生活という特殊な環境変化の適応のための変態を進行させるために他の生物とはことなる特殊な神経内分泌学的戦略を選択した結果と考えられた。


感想
かなり面白い論文。Han et al.のグループで腑に落ちない点を見事に解消し、さらに内分泌学の世界の視点にも関わらず、回遊という現象を見通している点はすばらしいと思う。
現在、執筆中の僕の論文にも多いに参考になり、これから行う研究にも役立つと感じている。特に、Gonadtropic Axes・Thyrotropic Axes・Somatotropic Axesの同時アッセイは是非行いたい。これと耳石の回遊履歴の解析でさらに進んだ回遊現象と生理状態の対応がとれると思う。
論文としてはFSHとLHの発現動態に関して、Han vs Aroua,Yoshiura,僕といった感じになっている。この点はDiscussionで触れるべき点である。FSHの動態はArouaは銀化して発現がわずかに減るとしているが、僕の研究ではそうではなかった。むしろ秋にあがるという現象が見られた。これは再度検証する価値があるが、この違いも論文構築に役に立つと思われる。
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