回遊や渡りなど、生物の旅に関する論文&研究日誌
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A.Herrel, R.S.James, and R.Van Damme
Journal of Experimental Biology 210 1762-1767 (2007)
久々に書きます。僕がゼミで紹介しようと思う論文です。
トカゲの行動変化とその生理的動因の背景に関する論文で、定着期のウナギが回遊へと行動をシフトすることにも関連するかなあと思って選びました。
Abstract
先行研究により、トカゲの中には温度の低下により、逃避行動から攻撃行動へと行動を移行させるものがいることが分かっている。我々のアガマ科のトカゲであるTrapelus pallidaデータは走力(低い温度では低いパフォーマンス)と咬合力(温度とはほぼ独立)といった能力形質そのものに与える温度の影響が温度低下による逃走から闘争への行動の移行を説明する可能性を実証している。さらに、以下のことは行動の移行の生理的基盤となり得る。すなわち取り出した筋肉の出力、単収縮や強縮の時間といった走力に関係した特性は強く温度依存的な筋肉特性であった。一方、筋肉の最大生産力はほとんど温度には独立しているようにみえる。意外なことに、顎と肢の筋肉の生理的特性の違いとして顎の筋肉ではすべての温度で生産されう最大の力が強められていたことが分かった。以上のことから、いかにして生理的過程を通した温度によって行動反応が規定されるかを示すことが出来た。
感想
最初に行動の違いがあることがまず面白い。また、Hertz et al.による1982年の先行研究では住む地域により行動反応が異なっていることも、行動進化的に面白い。
今回の論文では、行動の生理的動因としての筋肉の生理学的解析を行っており、生態・行動・進化を見越した生理学という感じがして個人的に好きな研究である。筋肉の温度による性質の違いが行動の違いを生じさせるというのはなかなか面白い話だなあと思った。
Journal of Experimental Biology 210 1762-1767 (2007)
久々に書きます。僕がゼミで紹介しようと思う論文です。
トカゲの行動変化とその生理的動因の背景に関する論文で、定着期のウナギが回遊へと行動をシフトすることにも関連するかなあと思って選びました。
Abstract
先行研究により、トカゲの中には温度の低下により、逃避行動から攻撃行動へと行動を移行させるものがいることが分かっている。我々のアガマ科のトカゲであるTrapelus pallidaデータは走力(低い温度では低いパフォーマンス)と咬合力(温度とはほぼ独立)といった能力形質そのものに与える温度の影響が温度低下による逃走から闘争への行動の移行を説明する可能性を実証している。さらに、以下のことは行動の移行の生理的基盤となり得る。すなわち取り出した筋肉の出力、単収縮や強縮の時間といった走力に関係した特性は強く温度依存的な筋肉特性であった。一方、筋肉の最大生産力はほとんど温度には独立しているようにみえる。意外なことに、顎と肢の筋肉の生理的特性の違いとして顎の筋肉ではすべての温度で生産されう最大の力が強められていたことが分かった。以上のことから、いかにして生理的過程を通した温度によって行動反応が規定されるかを示すことが出来た。
感想
最初に行動の違いがあることがまず面白い。また、Hertz et al.による1982年の先行研究では住む地域により行動反応が異なっていることも、行動進化的に面白い。
今回の論文では、行動の生理的動因としての筋肉の生理学的解析を行っており、生態・行動・進化を見越した生理学という感じがして個人的に好きな研究である。筋肉の温度による性質の違いが行動の違いを生じさせるというのはなかなか面白い話だなあと思った。
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Tamate T, Maekawa K
Evolution, 60 196-201 (2006)
玉手さんの論文は、「サケ・マスの生態と進化」(文一総合出版)という教科書を読んでから気になってました。論文チェックしてたら出てきたので読んで見ました。
Abstract
体の大きさが雌雄で異なる性的二型(SSD)は多くの種で起こっている。よくその性差は種内では変わらないと考えられているが、自然選択によって個体内変異やSSDの逆転が起こることがある。我々は日本沿岸の河川で産卵する遡河性のサクラマス(Oncorhynchus masou)を22地点(北緯37°から49°)でその雌雄の体サイズ、相対的体サイズ(RBS; 雄の体サイズ/雌の体サイズ)と緯度との相関を評価した。 雄の体サイズとRBSは緯度と正の相関を示したが、雌では緯度との相関は認められなかった。さらに、高緯度での雄の体サイズの増加はSSDが逆転するのに十分であり、その転換地点は北緯45°付近であった。我々は、雄の体サイズと緯度との正の関係はoprational sex ratioの増加と遡河性の回遊パターンの生活し戦略をとる雄の体サイズのために起こると推察した。結論として、我々の研究は初めて性選択の明らかなパターンによるSSDの予測可能な地理的な変異の例を提供した。
oprational sex ratio; 雌に対する繁殖可能な雄の割合
感想
緯度という環境の違い(おそらく生産性の違い)が生活史戦略に違いを生じさせ、結果SSDの種内変異を引き起こしたという説明はクリアな説明で面白いと思った。
ウナギも顕著ではないが、SSDは存在する。ただ、種内では変異は内容に思う。
Evolution, 60 196-201 (2006)
玉手さんの論文は、「サケ・マスの生態と進化」(文一総合出版)という教科書を読んでから気になってました。論文チェックしてたら出てきたので読んで見ました。
Abstract
体の大きさが雌雄で異なる性的二型(SSD)は多くの種で起こっている。よくその性差は種内では変わらないと考えられているが、自然選択によって個体内変異やSSDの逆転が起こることがある。我々は日本沿岸の河川で産卵する遡河性のサクラマス(Oncorhynchus masou)を22地点(北緯37°から49°)でその雌雄の体サイズ、相対的体サイズ(RBS; 雄の体サイズ/雌の体サイズ)と緯度との相関を評価した。 雄の体サイズとRBSは緯度と正の相関を示したが、雌では緯度との相関は認められなかった。さらに、高緯度での雄の体サイズの増加はSSDが逆転するのに十分であり、その転換地点は北緯45°付近であった。我々は、雄の体サイズと緯度との正の関係はoprational sex ratioの増加と遡河性の回遊パターンの生活し戦略をとる雄の体サイズのために起こると推察した。結論として、我々の研究は初めて性選択の明らかなパターンによるSSDの予測可能な地理的な変異の例を提供した。
oprational sex ratio; 雌に対する繁殖可能な雄の割合
感想
緯度という環境の違い(おそらく生産性の違い)が生活史戦略に違いを生じさせ、結果SSDの種内変異を引き起こしたという説明はクリアな説明で面白いと思った。
ウナギも顕著ではないが、SSDは存在する。ただ、種内では変異は内容に思う。
P.Hyvarinen, P. Suuronen, T. Laaksonen
Fisheries Management and Ecology, 13 339-401 (2006)
再来週のゼミのネタ探しでサケの短報を読んでみた。
あまり面白くなかった。
論文の概略
人工飼育で育てた大西洋サケと野生の大西洋サケの汽水域から淡水域で生残率などに違いがあるのか?また、行動に違いはあるのか?
音響トランスミッターのタグをつけ、追尾調査を実施。
サンプル数は人工も天然も4匹づつ。
生残率・遊泳速度などすべてにおいて違いが認められなかった。
さらにサンプル数を増やし、より詳しく調べる必要がある。
感想
個体数4匹は少ないが、追跡調査のような質の実験では仕方ないところか・・・。
クリアな結果をださずに論文になっているのはなぜだろうか。
Fisheries Management and Ecology, 13 339-401 (2006)
再来週のゼミのネタ探しでサケの短報を読んでみた。
あまり面白くなかった。
論文の概略
人工飼育で育てた大西洋サケと野生の大西洋サケの汽水域から淡水域で生残率などに違いがあるのか?また、行動に違いはあるのか?
音響トランスミッターのタグをつけ、追尾調査を実施。
サンプル数は人工も天然も4匹づつ。
生残率・遊泳速度などすべてにおいて違いが認められなかった。
さらにサンプル数を増やし、より詳しく調べる必要がある。
感想
個体数4匹は少ないが、追跡調査のような質の実験では仕方ないところか・・・。
クリアな結果をださずに論文になっているのはなぜだろうか。
Masato Nikaido, Oliver Piskurek, Norihiro Okada
Molecular Phylogenetics and Evolution 43 216-224 (2007)
今日は、前回のゼミの論文。青山さんの選んだ論文です。
SINEは少し興味があったし、何より鯨類を扱っているので特に気になっていた論文です。
Abstract
従来の形態学的データは、ハクジラの単系統性を示唆してきた。しかしながら、近年報告された新たな研究においては、この単系統性が議論の的になっている。我々は、これまでにイルカとマッコウクジラに共通のSINEを含む3つの遺伝子座を特定し、ハクジラ亜目が単系統であるとする伝統的な系統関係を支持した。近年、いくつかの分子遺伝学的研究がこの単系統性を示唆したものの、分子系統学的観点からは未だ懐疑的な見方がある。SINEを用いて適応放散した分類群の系統を明らかにしようとする際、ある分類群を選んだときに起こるAscertaniment Bias(サンプリングバイアス)を考慮することが重要である。この問題を解決するため、 我々はイルカ、マッコウクジラ、ヒゲクジラ、それぞれの種について広範なSINEの探索を行い、可能なすべてのトポロジーを検討した。その結果、マッコウクジラとイルカに計9個のSINEを特定し、ハクジラの単系統性を認めた。さらに、ヒゲクジラの祖先のみで増幅した計10個のSINEも検出された。以上の結果から、短期間に分化した鯨類にもかかわらず、系統推定のノイズとなる祖先のSINE多型は認められず、ハクジラ類は単系統であることが示された。
Molecular Phylogenetics and Evolution 43 216-224 (2007)
今日は、前回のゼミの論文。青山さんの選んだ論文です。
SINEは少し興味があったし、何より鯨類を扱っているので特に気になっていた論文です。
Abstract
従来の形態学的データは、ハクジラの単系統性を示唆してきた。しかしながら、近年報告された新たな研究においては、この単系統性が議論の的になっている。我々は、これまでにイルカとマッコウクジラに共通のSINEを含む3つの遺伝子座を特定し、ハクジラ亜目が単系統であるとする伝統的な系統関係を支持した。近年、いくつかの分子遺伝学的研究がこの単系統性を示唆したものの、分子系統学的観点からは未だ懐疑的な見方がある。SINEを用いて適応放散した分類群の系統を明らかにしようとする際、ある分類群を選んだときに起こるAscertaniment Bias(サンプリングバイアス)を考慮することが重要である。この問題を解決するため、 我々はイルカ、マッコウクジラ、ヒゲクジラ、それぞれの種について広範なSINEの探索を行い、可能なすべてのトポロジーを検討した。その結果、マッコウクジラとイルカに計9個のSINEを特定し、ハクジラの単系統性を認めた。さらに、ヒゲクジラの祖先のみで増幅した計10個のSINEも検出された。以上の結果から、短期間に分化した鯨類にもかかわらず、系統推定のノイズとなる祖先のSINE多型は認められず、ハクジラ類は単系統であることが示された。
Richard A. Holland, Martin Wikelski, David S. Wilcove
Science 313 794-796 (2006)
今日は前回と同じ、サイエンスの特集記事の中から、昆虫のMigrateについての記事を読みました。
Abstract
毎年、数え切れない昆虫が大陸間・大陸内を移動(Migrate)する。そして、この大規模な移動(Movement)に対する究極的な理由やメカニズムに関しては、まだほとんど分かっていない。我々は、この理由としておそらく繁殖の幅を広めることが昆虫の移動の最も大きな理由ではないかと考えている。繁殖行動の空間的・時間的な範囲を広めると、その子孫は多様な環境へと分散される。我々はまた、Migrateをより理解するために、昆虫1個体の長距離移動の研究が如何に重要かを示す。将来、より進んだトラッキング手法により、砂漠バッタなどの大型の昆虫の地球規模での観察が可能になると期待される。
論文の要点(個人的に面白かったところ)
Migration Strategies in Insects
生物の移動を直感的に考えると、生物の移動が進化するのは留まる利点より移動する利点の方が勝るときのみに起こると予想される。
昆虫ではこのことが当てはまるかどうかは議論の余地がある。
時・空間的に繁殖行動を広げることが、その子孫に将来の繁殖に重大な影響を与える可能性のある地域や環境へと分散させることになり、このことより昆虫は‘hedge their bests(複数の場所に賭ける)’の能力を有する。
Tracking
トンボのTrackingを行った点。夜間の温度低下を関知し行動していることが明らかになった。
500g以下の生物へのTrackingは基本的には重度の付加が掛かる。そのため、新しい技術の革新が求められる。
感想
昆虫のMigrationは回遊や渡りとは全く異なる移動形態であると思う。それにも関わらず、その戦略に繁殖があるということは興味深い。生物の基本的な活動は、成長と成熟の二つの幹に集約される気がする。回遊はその幹から伸びる枝であり、大本をたどると成長と成熟により制御されてる行動なのではと最近は考えている。
Science 313 794-796 (2006)
今日は前回と同じ、サイエンスの特集記事の中から、昆虫のMigrateについての記事を読みました。
Abstract
毎年、数え切れない昆虫が大陸間・大陸内を移動(Migrate)する。そして、この大規模な移動(Movement)に対する究極的な理由やメカニズムに関しては、まだほとんど分かっていない。我々は、この理由としておそらく繁殖の幅を広めることが昆虫の移動の最も大きな理由ではないかと考えている。繁殖行動の空間的・時間的な範囲を広めると、その子孫は多様な環境へと分散される。我々はまた、Migrateをより理解するために、昆虫1個体の長距離移動の研究が如何に重要かを示す。将来、より進んだトラッキング手法により、砂漠バッタなどの大型の昆虫の地球規模での観察が可能になると期待される。
論文の要点(個人的に面白かったところ)
Migration Strategies in Insects
生物の移動を直感的に考えると、生物の移動が進化するのは留まる利点より移動する利点の方が勝るときのみに起こると予想される。
昆虫ではこのことが当てはまるかどうかは議論の余地がある。
時・空間的に繁殖行動を広げることが、その子孫に将来の繁殖に重大な影響を与える可能性のある地域や環境へと分散させることになり、このことより昆虫は‘hedge their bests(複数の場所に賭ける)’の能力を有する。
Tracking
トンボのTrackingを行った点。夜間の温度低下を関知し行動していることが明らかになった。
500g以下の生物へのTrackingは基本的には重度の付加が掛かる。そのため、新しい技術の革新が求められる。
感想
昆虫のMigrationは回遊や渡りとは全く異なる移動形態であると思う。それにも関わらず、その戦略に繁殖があるということは興味深い。生物の基本的な活動は、成長と成熟の二つの幹に集約される気がする。回遊はその幹から伸びる枝であり、大本をたどると成長と成熟により制御されてる行動なのではと最近は考えている。